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■7月4日(土) 午後1時30分~午後3時

ゲスト : 香川 京子 (女優) 川本 三郎 (文芸評論家、映画評論家、エッセイスト)東京を舞台にした成瀬巳喜男監督作品『銀座化粧』『おかあさん』『稲妻』『驟雨』『杏っ子』に出演された香川京子さんと、『成瀬巳喜男 映画の面影』(新潮選書)著の川本三郎さんが、「静かな巨匠」と「映画の東京」の魅力をご案内いたしました。


川本:成瀬巳喜男は、私の一番好きな監督です。その中でも一番好きな作品が『おかあさん』で、
   きょうは、若き日、それに出演してお嫁さん姿になられた香川京子さんとお話しできるので楽しみにしております。
近衛:なぜ、成瀬監督が一番なんですか?
川本:一番好きな点は、「貧乏くさい」ことですね。(笑)
   ともかく、「貧乏」をたのしく、ゆたかに描くというのはハリウッド映画になかった視点で、
   まさに昭和を代表する監督といっていいと思うんですね。
   日本の昭和という時代は、どういう時代だったかというと、普通の庶民、いわゆる「小市民」という階層が生まれた時代なんですね。
   その頃、「大船調」と呼ばれた松竹映画が特にそういう「小市民」を題材に映画を作るようになった。成瀬は、それを学んで育ってきた   監督なんです。彼は、一貫して「小市民」を描いてきた監督で、昭和という時代にピッタリの監督なんです。
近衛:成瀬監督は、どんな方だったのですか?


香川:私、『おかあさん』などの映画を観ても、日本的ではあるんだけど、どこかすごくモダンなところを感じるんですよね。
   洗練されたというか、洒落たものを感じるんですけど、どうでしょうか。ただの「貧乏」でなくて。
   だから、フランスで評価されているんですよね、成瀬監督は。特に、『おかあさん』は。
川本:さきほど、香川さんは、成瀬監督が水木洋子さんの脚本のセリフを削るとおっしゃいましたが、
   喜怒哀楽のメリハリをつけるというか、大げさな表現を嫌う、
   そこがモダンなんじゃないでしょうかねー。
川本:『おかあさん』の香川京子さんのすばらしい場面は、表情の演技で・・・、
   去っていく職人の加東大介を家の前で見送っている香川さんの、なんか申しわけなさそうな、
   ちょっとほっとしたような、複雑な表情を見せるという、あれは、名場面だと思います。
   他の監督だったら、「ごめんなさいね」とかセリフを言うところなんだけれども、成瀬は一切セリフをださない。
近衛:ほんとですね。


〜『銀座化粧』ロケ地地図の解説、ロケ地の現在画像紹介の後、会場からの質問に答えて〜
Q:これは、見ておいたほうがいい、成瀬監督作品を教えてください。
川本:もちろん『おかあさん』ですが、もう一本は、あまり語られることのない映画で『鰯雲』です。
香川:自分が出た作品でお話しさせていただくと、『驟雨』をおすすめします。
   ああいう役がすごく好きだったものですから。ちょっとコメディのね。
   ああいう役は、今もやってみたいと思っています。
近衛:いま、香川さんがおっしゃった『驟雨』は、ほんとうにおもしろかったです。
   原節子さんが貧乏くさい?奥さんなんですよね。お嬢さんでなくて。
   それが面白くて。香川さんもとてもおもしろかったので。
香川:原さんが、お台所で立ったままお茶漬けをかき込むところがあるでしょ。
   あそこが、だぁい好きで、小津監督の映画の原さんとは全然違うでしょ。


近衛:あと、もうひとつ『あらくれ』という映画を観ましたが、すごいですね、あれは。
川本:『あらくれ』はね。近衛さんみたいな若い世代の女性は、みんな『あらくれ』が好きだというんです。
   我々古い世代の男は、ちょっと苦手なんですよ。あまりにも強いあらくれ女が主人公なんだから。逆に、あなたたちにあの映画の良さを   教えられたという感じです。
近衛:おもしろかったです。
川本:近衛さんの世代で成瀬の映画を観たり、話したりしますか?
近衛:セブンシネマ倶楽部に来ていただいた井口奈己監督は、たいへんお詳しいですよ。
近衛:きょうは、お話しをさせていただいて、とても幸せでした。
   最後に川本さんの『成瀬巳喜男 映画の面影』を読ませていただいてよろしいでしょうか。
   「日本映画の巨匠のなかでは黒沢明は大仰すぎた。小津安二郎は立派すぎる。溝口健二は女性の描き方に抵抗があった。木下惠介は好きな作品とそうでない作品の落差が大きかった。地味で静逸な成瀬の世界がいちばんしっくりいった。木綿の手ざわりと言えばいい   だろうか。」
   今回、成瀬監督の作品を観させていただいて、特別なことが起きるわけではないですけれど、すごく温かい日本人の古き良きこころがにじみでていて、そういう世界がとても好きになりました。また、東京も映画をたよりに歩いてみたいなあと思いました。
本日は、ありがとうございました。(一部採録)


■ 7月ゲスト 
香川 京子 (女優)
東京都立第十高等女学校(現東京都立豊島高等学校)卒業。1949年の東京新聞「ニューフェイス・ノミネーション」に選ばれ映画界入り、その清潔な魅力と飾らない演技でトップスターの座を獲得、1952年にフリーとなった後も多くの巨匠監督たちに重用されてきました。出演作:成瀬巳喜男監督『銀座化粧』(51)、『おかあさん』(52)、『稲妻』(52)、『驟雨』(56)、『杏っ子』(58)ほか、『ひめゆりの塔』(53/今井正監督)『東京物語』(53/小津安二郎監督)、『近松物語』(54/溝口健二監督)、『どん底』(57/黒沢明監督)など世界映画史に残る数々の名作に出演。現在、映画やテレビドラマへの出演を続ける一方、フィルムセンターへの寄贈などを通して我が国の映画保存活動にも貢献、2011年、日本人では初となるFIAF(国際フィルム・アーカイブ連盟)賞を受賞。

川本 三郎(文芸評論家、映画評論家、エッセイスト)
1944年東京生まれ。文学、映画、東京、旅を中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『今ひとたびの戦後日本映画』『銀幕の東京』『日本映画を歩く』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』など。近著に『成瀬巳喜男 映画の面影』(新潮選書)がある。

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